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札幌高等裁判所 昭和26年(う)770号 判決 1952年1月28日

控訴人 被告人 水沼康平

弁護人 芳谷今造

検察官 佐藤哲雄関与

主文

原判決を破棄する。

本件を旭川地方裁判所に差し戻す。

理由

弁護人芳谷今造の控訴趣意は同人の提出にかかる控訴趣意書記載のとおでりあるからこれを引用する。

右控訴趣意第二点について。

本件起訴状記載の公訴事実一乃至七はいずれも被告人が検査合格品であるボッコ靴及び長靴をその統制額を超えて販売したという事実にかかるものである。然るに原判示(一)乃至(七)の各事実によれば、被告人が無検査のボッコ靴及び長靴をその統制額を超えて販売したという事実が摘示されている。かくの如く起訴状に検査合格品であるボッコ靴及び長靴と記載されているものを判決において無検査品であるボッコ靴及び長靴と認定することは訴因の統制超過額を被告人の全く予期しない不利益な額に変更することになるのであるから被告人の防禦権を確保するため、審理の途中において検察官をして訴因変更の手続をとらしめなければならないのに拘らず、原審はこの挙に出でず、漫然上記の如く認定したのは刑事訴訟法第三百十二条の趣旨に違反するものであり、右の違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから論旨は結局理由がある。そこでその他の控訴趣意に対する判断を省略して刑事訴訟法第三百九十七条により原判決を破棄し、同法第四百条本文に従い本件を原審である旭川地方裁判所に差し戻すこととする。

そこで主文のように判決をした次第である。

(裁判長判事 黒田俊一 判事 佐藤竹三郎 判事 東徹)

弁護人芳谷今造の控訴趣意

二、原判決は審判を受けた事件について判決せず又は審判の請求を受けない事件について判決をした。

本件起訴状を見れば(一)乃至(七)の犯罪は何れも検査合格品のゴム靴をそれぞれ統制価格を超過して販売したとの公訴事実である。然るに原判決は前述の如く検査合格品なりとの訴因の変更を命じないで勝手に変更し無検査品と認定したのは明に審判の請求を受けた事件に付て判決せず、審判の請求を受けない事件につき判決をした違法がある。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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